【人】 糖画 ユゼ「おはよう、ユゼ」 [台所から、母の優しい声と、溶けた砂糖の香りが漂ってくる。版の上には既に、いくつかの「絵」が出来ていた。 糖画。俺達が生きていく上で、必要な仕事。 母がどうしてこんな場所で暮らして、俺を産み、育てているのかは知らない。 ただ、自分は物心つく頃からこの古ぼけた賃貸住宅で糖画作りをしていたし、傍にはいつも優しく微笑む母の姿があった。 昔と比べて随分と上達したとはいえ、俺の糖画技術はまだまだ拙い。いくつも失敗した「絵」を砕いて落ち込むたびに、母は俺の「絵」だった飴の破片を、宝石を見るような目で見ていてくれた。] (10) 2022/07/29(Fri) 12:33:03 |