【人】 紅柱石 アンドレアス[息を殺して、感情を堪えていた。 青年は鍵を持って、階下へと降りる。 身体を拭く湯を貰う為に。 出来れば、素肌を晒す公衆浴場の利用は避けたい。 多くの目があるところで見咎められないとも限らない。 明日、自分だけ済ませたと言ったなら、また傷つけるだろうか。 青年は嘆息する。 宿屋の人間に声を掛ければ、洗濯場を貸してくれた。 うっかり酒が過ぎて風呂に入り損ねる客がいるのだろう。 青年はそこで着衣を脱ぐと布に湯を浸し、身体を拭いた。 鎖骨の下──人間でいう心臓の辺りに青年の核は存在する。 触れば明らかに硬質な感触があり、熱が灯っている。] どうして、私達は人の姿になったのだろうね。 [明らかに違った姿をしていたならば、同じ生き物のような顔をして紛れ込むような事もないのに。 青年は首を横に振ると衣服を着直した。] (13) 2021/09/30(Thu) 21:00:12 |