【人】 口に金貨を ルチアーノ夜も深く、ネオン街から遠く離れたところにある一つのクラブ。 紫色の照明が眩い地下からの階段を、煽情的な衣装の女と灰色のチェスターコートを羽織った男がゆっくりと上っていた。 頭一つ分小さな女が顔を陰らせながら首を擡げ、長躯の男は視線に気づくとやうやうしい仕草で口を開く。 「浮かない顔をしているね。 ……だけど今、僕たちはきっと同じ気持ちのはず」 細腕ながらもしがみつく腕、吊られるように眉を下げた男から告げられるのは蕩ける様な甘い言葉。 「今日のあなたもすっごく可愛らしかった。 Gattina,またすぐ会いにくるね」 花一輪、腕を離す代わり胸元に添え手の甲へと口づけが落とされれば二つの影は離れていく。 そうして男は薔薇の様に頬を染めた女の傍らをすり抜け大通りの方角へと靴を鳴らして歩いていった。 「……ふぅ。 Pronto.――今店から出た、車寄せておいてくれるかー? 次に向かう前に女の宝石を見繕っていく。開いてる店手あたり次第当たるぞお」 (13) 2023/09/02(Sat) 6:46:12 |