【人】 「狂」の神 アネーシャそんな軽口を叩いて、ナハトとの会話へと思考をを動かす。 「義」神がつく嘘はどんな味なのだろう。 味わってみたいし、聞きたくもない。 「ーー……狂?」 問いを受け、アネーシャの瞳から仄かに色が失われた。大したことではない、否大事だ。それは聞かれたくない、むしろ言いたい、どちらでもない、問いかけだった。 揺らいだその機微を悟られぬよう、けれど嘘をつくことはせず、ただアネーシャは、微笑んだ。 「わたくしは確かに“狂”の神と呼ばれているけれど、けれどねナハト。 わたくしは、自らその名で呼んでくれと頼んだことは、一度もないのよ〜」 唇を三日月型に象って、そうしてそのままナハトの耳元に唇を寄せる。 「でもその質問は素敵ね〜。 狂って何かしら。何でもないのかもしれないわ。 わたくし思うのよ。 狂は愛でもあり和でもあり義でもあり、 そうしてきっと帝でもあるんじゃないかって。 何でもあり、何でもないのよ。 思わなかったことをすることが狂うという意味だとわたくしは思っているわ〜。 ねぇ、この世界で一番不確かなものって何かしら〜。 わたくしそれが一番“狂”の神に相応しいと思うのよ〜」 そうして最後に、付け加える。 (14) kikimi 2019/10/05(Sat) 8:57:59 |