【人】 虹彩異色症の猫[ 瓶から取り出した鶏肉を、子猫の口にも入る程度に裂き分ける間も待ちきれないと、両の前足を澤邑の腕に掛けたり、鼻を近付け匂いを嗅ぎ、あまつさえ肉の塊のまま舐めようとする。 さあどうぞ、とようやく差し出された掌の上の肉片を、舌音を立ててむしゃぶりついている。 無くなれば片足を掌に乗せもっと、と見上げる。 何度かそれを繰り返し、おかわりが出てこなくなれば名残惜しげに欠片の残る澤邑の掌をぺろぺろと舐めている。 孫らが両手いっぱいに買ってきた屋台の食事に、鮎の塩焼きでもあればそちらに色気を見せたかもしれないが、生憎子ども好みの味付けの甘辛いたれやソースの匂いばかりで、興味もないと澤邑の膝の上に身を伏せた。 帰りの道取り、孫らはくじの戦利品に夢中で先を行く。 猫は澤邑と共にゆるゆるとその後ろを歩いている。すっかり装具をつけての散歩も板についている。 途中、ひとひら、ふたひら風に舞う桜が鼻にぺとりと貼り付き、んな、んなと不器用に取ろうとする仕草が踊っているようにも見える。 邸に帰り着くと、子どもたちは玩具や屋台の土産を手に奥へと駆け出して行った。祖父と猫は置き去りだ。子が猫に好かれないのはそういったところかもしれない。 家人が用意した温かい濡れ布巾で猫の身体をまた拭う。散歩の終わりのそれにも慣れたのか、それとも温かくしてあるのが心地良いのか、今は小さく喉を鳴らしている。 終われば早々に膝の上を下り、縁側の陽当たりのよい場所を探しりろりろと鈴を鳴らして毛繕いをしている。 この陽気に、まだ寒さの名残で残っていた炬燵>>0:14が片付けられた事に気づいて、穏やかならぬ有様になるのはこの後の話だ。]** (14) 2022/04/16(Sat) 11:10:03 |