【人】 花浅葱 ヴリエミァ「Scacco matto、ミスター」 男は盤上に孤立した相手のキングを指で弾いて、口元に薄い笑みを浮かべた。 ここは署内の休憩室。 仕事中であれば、チェスを1ゲームするほどの休憩時間は昼以外にはないだろうが。 「あー、白熱しましたね。楽しかったですよ」 悔しがる相手をよそ目にデスクへと足を向ける。 気分は良いが、何かを忘れている気がして首を傾げた。 そういえば……昼を食べてないかな? 「まぁいいか。面倒だし」 昼寝の時間も取れてないがチェスをしたから仕方ない。 あくびを噛み殺してデスクに着けば、部屋に響く電話のコール音。受話器から届いた声に、男は少しだけ苦い顔をした。 「やぁ、アリーチェ。 今日も順調にトラブルを引き寄せているかい? 振込詐欺、あぁ……え、署に繋げる? ……OK、話してみようか」 切り替わった時、電話が繋がったままかどうかは相手次第だ。 (17) eve_1224 2023/09/02(Sat) 8:43:49 |