【人】 略奪者 ラシード[ 其の一瞬の変異は、例えるのならば 内臓が皮膚を食い破ったかのようにすら見えただろうか。 白い皮膚が裂け、赤い筋肉や黄色の脂肪が飛び出し。 銀の毛の塊をその隙間からざわざわと蠢かせながら 人間をひとまわり、ふたまわり超えた体躯へと肥大化する。 ごき、ごきん、ぱきん、 と圧し折る音は 砕けるよりも寧ろ、殻を破って成長を繰り返す地虫のよう。 口元を覆った赤い布がぱさりと落ちれば、 其処には鋭く、白い牙が並ぶ口が長く飛び出す。 じぶじぶじぶじぶ。肉に焦げ目を付けるようなざらつく音も よくよく見れば滲出した体液が少しずつ、 巨大化した身体に皮膚を形成して覆っているのだとわかる。 毛虫が這い上がるかの如く其処に被さっていく銀の毛皮は、 研究者たちに撒き散らされ、ちらちらと大気を舞うそれとよく似ていた。 ぼろ雑巾のように小さく千切られてしまった毛皮を 血だらけの指でなお奪い合う学者たち。 その1人がふと、若い獣人だったモノの方に視線を向け。 上げたのは、 歓喜 の声であった。 ] (17) 2022/11/10(Thu) 2:39:31 |