【人】 京職 一葉日々、戦場や墓で屍肉を漁り、腐肉を啜る。 この都の郊外に居着いていた取るに足らない小物妖怪────それが元々のオレ、だ。 「そんなものより、こっちの方がずっと美味しいわよ?」 二十年ほど前のある日、犬の死骸に食い付いていたオレに、そう声をかけたヒトがいた。 白くふわふわした甘い何かを手渡され、その鈴のような声に驚き顔を上げれば、満開の桜の下、微笑む娘が居た。 「ご覧なさいな、綺麗な桜じゃない」 端から見ればほんの些細な、小さな出来事だったろう。 だが、死骸を探し、地だけを見て生きていたオレに、それは、世界を変える出来事だった。 * * * 「それまでは、ヒトとは、精々が"知恵のある餌"でしかありませんでした」 だが、ヒトには心があった。 花は美しく、"団子"なるものは屍肉より遥かに旨かった。 ────屍肉を啜るしかない己が、酷くさもしく、恥ずかしいものに思われた。 訥々と身の上を話す私を、百継様はどのような顔で受け止めていたのか。いや、最早、聞く耳すら持たれていなかったやもしれぬけど。 (18) Valkyrie 2021/04/23(Fri) 8:12:11 |