![]() | 【人】 今宮 水芭人形の視線を感じるなどという予感が、現実のものとなってしまうとは。 まるで正夢の続きを見ているかのような錯覚に慄きつつも、一思いに首を回して声の主に相対しました。 行商の女の着るドレスは冬物のようにも見えましたが、彼女は暑気など微塵も感じない、昨日と変わりのない無表情をこちらに向けているのでした。 私は、内心の狼狽を隠すように 「あ、ああ……いえ、すこし立ちくらみが」 などと言って当たり障りない返しをします。 何でもないふうを装ってやり過ごそうとして、つい、彼女のその暑気をものともしない、涼しげな面差しに目が惹かれていきました。 (18) 榧 2025/07/03(Thu) 3:44:17 |