【人】 拷問吏 ネロ「……仕事場に尋ねて来よう者がいるとはな。 何、取り込み中ではあるが急ぎの用向きであろう」 追い返しはせんよ、と椅子を用意した。 だが相手は事務的に用件を伝えていく。 「承ろう。期日までには口も割ろう。 何、男も女も鳴かすは変わらぬよ」 一般的に痛みへの耐性は女の方が強いとされるが 個人差もあるうえ強い痛みに対してはさほど差はない。 事務的な男は必要事項だけを告げて去っていく。 組織の一般的な人間の姿だ。 拷問吏は一つ増えた仕事を片手に、白湯を口にした。 ……背後で物音がする。 振り返るとそこには、椅子に縛り付けられている男。 仕事道具を手に取り、その男の耳元に口を遣り 弦楽器を静かに鳴らすような声で優しく囁く。 「愛いな、薬品からの覚醒が早くなったではないか……」 (19) 2023/09/02(Sat) 10:19:37 |