【人】 孤児 ヘイダル「…………ん」 頬はきらきら紅潮して見えるのに、林檎を差し出した手に触れる指はひんやり冷たい。 人の波に倒されそうになっていたから咄嗟に腕を取って引き寄せたら、驚くほどに軽かったのを思い出す。 ────ああ。やっぱりこいつは、人じゃないんだな、って。 そんな事からも思い知らされるのに、なのに林檎は普通に食うのかよと笑えてしまう。 ほんと、傍目からは、なーんも考えてない頭ふわふわ系ちんちくりんにしか見えないのに、な。 「幸せ?……そうかな」 でも俺、まだなんにも出来てねーよ?と浮かべる笑みにはどうしても苦さが混じる。 "助けたい"と思うだけじゃダメなんだ。 "助ける"と誓ったところで、結果が伴わなければ、俺はただの嘘吐きだ。 ────そして、たぶんだけど、俺はゾラフに自分を重ねてる。 彼が自由になる姿に、己の未来を重ねて見ようとしてる。 こんな、こそ泥みたいな事だけ続けて生きていくつもりなのかと。 己には、立つべき場所が他にあるんじゃないのかと。 それは多分、目の前のこいつに対しても思ってることで────。 (19) Valkyrie 2019/06/15(Sat) 15:32:14 |