【人】 葛切 幸春[窓硝子の向こうを流れ行く景色の何よりも、隣にこそ視線を惹かれている。 ハンドルを握る相手が前を向いているのを良い事に、見詰める視線は過日よりも余程不躾だったろう。此方の質疑を暫し咀嚼する声>>17 に、相手の心にあの犬が最早居座っていない事を知る。] ……… そうか。 [表情を取りあぐねて、僅かに視線を彷徨わせた。 こんな瞬間に舌の回らなさを自覚する。] [あの犬は、己にとって謂わば彼が元来ストレートである象徴だ。 故にその言葉>>18 を嬉しく思ってしまう。のは、結局のところ器が狭い証左でしかない。それを口に出すのは憚られた。可愛らしい女性なら未だしも、男の嫉妬は醜いとも云う。 いや、俺はあんたなら嫉妬も愛しいと思うが ―――閑話休題。] [暫しの沈黙を如何受け取られたにせよ、思考を現へ戻せば何時しか信号が赤く光っている。重なる視線に微か眦を弛め、薄く口を開いた。] (20) 2024/04/27(Sat) 22:29:06 |