【人】 アジダル[ 次に眼を開いた時、その部屋の中は 静まり返ったダンスホールだった。 熊を追いかけて辿り着いた森の奥、 カスタネットを鳴らし合って踊り狂った彼らは やがて疲れ果てて朝露の中に伏せていた。 しとどに濡れた黒衣より したたり落ちる温い赤滴。 嗅ぎ慣れた硝煙の香りに眼を見開いて 強烈な既視感に襲われて、 背中を引いていた筈の重力が突然下に落ち、 強烈な眩暈に額を押さえて踏鞴を踏んだ。 ……その背中に声がかけられることを知っている気がする。 揶揄いの主は自分と違って汚れの一つもなく、 文句を言うはずだった唇を閉ざすしかないのだと、 知っている、気がした。 ──これは制圧の日だ。 ] (23) 2020/09/30(Wed) 6:07:31 |