【人】 陰陽師 讃岐 氐宿「やつがれには鬼一さまは眩しゅう御座います。やるべきことを見据え、愚直に邁進する貴方様は、やつがれと同じく家の者を失ってもなお、誇り高くあらせられる。こうしてお声をおかけいただくまで、やつがれはあの夜行を根元から防ぐなどという考えも浮かびませなんだ」 目を細め、柔らかく笑む。その笑みの裏には何もない。 霧の如く、風に吹かれる砂塵の如く、掴みようのない虚ろだけがある。 「平穏を齎したいというお考えはようく分かります、が──やつがれにとって其れは、鬼一さまのような強きこころより齎される責務ではなく、ただ、穏やかに暮らしたいという単なる諦観のようなものでも御座います」 ことり、と折れるように首を傾げる。 虫の声が遠く響いている。 「それでもよろしければ、お力添え致しましょう。やつがれも、かの夜行の被害を抑えられるように願う気持ちそのものに、虚実はありませぬ」 このようなもので、よろしいか。 最後にそう問いかけて──どのような答えが返ったとしても。 一つ、会釈し。地に掛かれた天地盤は足で払って潰してしまう。 「よい夜を」 最後に1つ、そう告げれば、陰陽の道に取り残された者は、闇へと消えていった。 ◆劣等感(−)取得 (24) mile_hitugi 2021/04/24(Sat) 7:39:57 |