【人】 狐娘 レイ―― ちいさな恋の話 ―― [その日は一人で村を抜け出して、泉のほとりで遊んでいた。 泉の周りにだけ咲く花はとても珍しく、花を積んで母を喜ばせようと集めていれば、森から飛び出してきた魔物に襲われた。 為す術なく身を庇っていれば、しばらく経っても痛みはやって来ず、代わりに降り落ちて来たのは幼い声だった。 ぱちぱちと目を瞬かせて、ようやくその姿を見れば紅い髪が濡れたように美しい。] わぁ……、きれい。 [魔物に襲われた恐怖も忘れて、初めに出たのはそんな言葉。 それから、心配してくれたのだということに気づいて、はっとした。 驚いた弾みで出た獣耳をぴるぴると揺らしながら、懸命に頷く。] う、うんっ。 だいじょうぶ! わたしはまものじゃないよ、 レイっていうの。 (24) 2021/12/02(Thu) 11:56:01 |