【人】 因幡 理恵[……入道雲が姿を消し、薄い綿のような雲が散らばる季節になるにつれて、妙な夢を見るようになった。 遠くをフウタが歩いている。自分はまだ乳を吸うのがやっとで、満足に歩くこともできない。けれど自分はみるみる成長して、フウタの歩みものろいから、追いかけ始めればあっという間に距離を縮めた。 フウタ、と手を取って並ぶ。他愛ないおしゃべりに夢中になっていれば、つないでいた手が離れた事にも気づかなかった。 強風に煽られるように、足がぐんぐんと前に進む。フウタの声が遠くなっても、戻れない。歩みは流れに押されてますます加速し、一か所にとどまることも叶わない。振り返ってフウタとの距離を確かめることも。 行かないでくれ、という悲痛な願いは、性能の良い耳でやっと聞こえるかどうか。いつのまにか、かなり離れていた。 首が勝手に動き、ようやっと振り返る。かすむほど遠くなったフウタに、眉を下げた。] すまんの、フウタ。 こればっかりは、理恵にはどうしようも無いのじゃ。 [伸ばされた腕>>5にふっと意識が戻る。 夢はあっという間に霧散して、記憶をたどっても思い出せない。 目覚める間際、フウタに寄り添う小さな影を見た気がする。しかしそれも定かではない。 頼りない記憶をたどるのは早々に諦めて、今目の前にある鼓動>>17に集中した。] (26) 2020/12/26(Sat) 14:18:50 |