【人】 小さな心臓の サルガス>>4:30 朝の食堂 シェルタン 「ありがとう。ほんとうに、ありがとう。 いつだって、弱音をはいていいからね。ぼくでなくても、寄りかかれるだれかに、そうしてね。 ……たとえば、メレフとか。ぼくは、なにも聞いていないけれど……」 二人の間に、あの日の深夜に何かがあったのだと言うことは聞いている。それが何かは、敢えて問いたださなかった。 けれど、二人がそれを同じく抱えているのなら、二人なら何とかできると、信じている。 言葉少ない彼と、優しさで口を隠した貴方が。互いを大切にしようとしていること。 互いの言葉の中に言外に抱えた見えないものを、なんとなく、信じているのだ。 「いつか、また、あのひの音色を聴きたいな。 愛の喜び 、こんどはあたまからちゃんと、さんにんで……」くしゃくしゃになった涙声は、俯いた頭の下側からのぼるやうに聞こえる。それを、鼻を啜って押し返して。 あまり小綺麗ではなくなってしまった顔をぱっと上げると、両手をやさしい腕から離した。 人のほとんど捌けかけそうな食堂の出口へ、くるりと足を向けて、振り返らないように駆けていく。 「じゃあね! みんなのこと、よろしくね!」 (31) 2021/05/31(Mon) 14:42:20 |