【人】 元チアリーダー 早乙女 菜月[猫みたいな四つん這いで、風下ならぬ光下から近づく。斜め下からその影を見上げていると、彼はすっと手を伸ばして、一冊の本の背表紙に手をかけた。 たしかに一冊の本に手をかけていたけれど、抜き取ったのも影だけだった。透明な本が光をさえぎって、まぶしくてしかめていた私の顔に、影を落とす。] あ……あの! [チアで鍛えた脚力を存分に発揮して、一気に伸びあがった。高い背よりもさらに長く私の影が本棚に伸びる。彼にもしも私の影が見えていたなら、いきなり現れたように感じただろう。 彼が抜き取った本は、そのまま本棚の中に納まっていた。私が背表紙に指をかけると、影と一緒に実体もついてくる。軽くて、セピア色に変色した本を彼に見せながら、] 私も! これ、借りてもいいですか! [コミュニケーションを試みた。 これで何事も無かったように本を変えられたら爆笑だなって思いながら。]** (32) 2020/09/27(Sun) 12:09:31 |