【人】 書生 シキ一度は見た顔、二度か三度は見知った顔。 今宵は万屋に古本屋、それに知らぬ男に女が何人か。 旅客として方々を回っていた青年は この村に暮らす人々の様子を、それとなく記憶していた。 或いは、一度は挨拶を交わしたことがある間柄かもしれない。 >>29 しかし、あなたの姿はその限りでは無かった。 日陰でぼんやりと浮かぶような白い面立ちと そこにぽっかりと空いたような黒い眼差しが はらりと垂れる、赤い栞紐を覗かせた本を持つ青年へと向く。 「……いいえ? むしろ誇らしげに見えますよ。 俺が居た所のものとは、全然雰囲気が違います」 一転して表情緩やかに、甚く関心ありげな返事を成す。 その言葉遣いは、島外の者特有の色を持っていることだろう。 「良い祭りですよ。」 ――そう、ぽつりと加えるように呟いて。 (33) 2021/07/20(Tue) 16:11:15 |