【人】 「騙」の神 ペノルアネーシャちゃんを腕の中におさめたところで、彼女を捕まえたことには少しもならない。 ……なんてことは、ない。 アネーシャちゃんはワタシの至近距離で、ぽろぽろと惜しみなく言葉をこぼした。 自分はこの戦いに関わっている気はないこと。 ワタシが主神になることを肯定すること。 いいや、むしろ全てどうでもいいこと。 彼女の声が近い。物理的に。 この距離は、いつもとりとめがなく聞こえる彼女の台詞に、少しだけ、生々しさや湿度を与えた。 肩を押され、離れていく彼女の声をひどく惜しく感じる。 混乱していたから。 ここ……戦いの場所に立っておきながら、まるで他人事であるようなアネーシャちゃんの言葉を、どう理解していいか、わからなかったから。 ワタシがこんなにも望む勝利に、手をひらひらと振って「興味ないわ」と顔を背けていることが、一瞬、まったく理解できなかったから。 でも、アネーシャちゃん、明日には「やっぱり勝とうかな」って思うんじゃないのかい。どうなんだい。 (33) TSO 2019/10/06(Sun) 17:55:21 |