【人】 高山 智恵 カズ君から呼び止められ、私は振り向いた>>18。 追加のオーダー……という訳ではなさそうだ。だってここは彼に案内したテーブル席じゃなくカウンターだ。それに―― 「ああ、うん。――さんでしょ? 今日は特にうちには……、……」 カズ君と二人で来店していた時に聞き拾っていた名前を口にしながら「来てなかったなー」と言い掛けて、口を止めた。 ――あれ? 本当に今日は来てなかった? ぼんやりとした引っかかりが、頭の中でぱっと線を結ぶ。 「いや、来てた来てた! ランチタイムに来てデミオム食べてったよ」 今日の昼のことを度忘れしていたのは、当然のように店員にとって目まぐるしく忙しい時間帯だったからであり。 彼女も“ いつも通り ”ワンコインランチをオーダーしていたからであり。 そして、その彼女から何かしらの話を聞いた覚えがなかったからだ。 (33) 2022/10/22(Sat) 10:48:34 |