【人】 九朗[早速明日の約束をとりつけた九朗は、機嫌もよく一二三の工房で針と糸を借り、白い縫いぐるみのほつれを一刺し一刺し丁寧に縫っていた。 車輪に踏まれて折れた骨芯の代わりを削り出した一二三の方は、歯車の欠けや摩耗がないか、小さな部品をひとつひとつ改めている最中だ。 黙々と作業するふたりの間は静まり返っていたが、会話の口火を切ったのは意外にも一二三のほうだった。 唐突に前振りもなく。 そういえばと言って続けられた言葉は 「昔お前が作ったものが修理に回ってきた」 という短い一言。 どこか抑揚を抑えた一二三の言葉に、九朗の瞬きがひたりと止まる。] …………おや、 それは……… ふむ…、驚きました……ね。 [本当に驚いたという顔で目を丸くする九朗に、一二三の顔が苦虫を嚙んだようになる。] (36) 2022/04/10(Sun) 0:07:14 |