【人】 法の下に イレネオ陽の傾きかけたどこかの時刻。 休憩スペースに顔を出した同僚に、男は軽く会釈を返した。 手に持つのは缶入りのブラックコーヒー。おそらく凭れかかった自動販売機で購入したのだろうそれは、男の大きな手の中では小さく見える。簡単に、片手でひしゃげさせてしまえるくらいに。 「ああ、お疲れ様です。」 「ええ、近頃は奴らも活発で。」 受け答えする言葉は短く単調でにこりともしない。目を合わせることすらほとんどないまま、飲み口に目を落とし、残り少なくなった液体を煽った。 「いえ。俺はもう戻ります。そろそろ5分ですから。」 すげなく誘いを断って、そのまま大股で廊下を行く。 やがて聞こえてくるのは淀みなくキーを叩く音だろう。 長身を収めるには窮屈そうなデスクは、しかしそれでも、正しく男の居場所だった。 (37) rik_kr 2023/09/05(Tue) 18:14:40 |