【人】 黒眼鏡あくびをひとつこぼしながら、古びた扉を押し開ける。 海沿いの開けた道に面して建てられた、トラックがまるまる入ってしまいそうなスチール・ガレージを改装して作られた店舗。 それなりに古びていて潮による錆も無視できないが、そこは短パンとサンダル姿で表をぶらぶら出歩けるくらいには気ままな彼の城だった。 「よっと」 片手で持ち上げた大きな木製、二つ折りの看板を、店先にドカンと置く。 【Mazzetto】という味気のない店名のそばには、似合わない小さな花がセロテープで張り付けてあった。 黒い眼鏡をかけたその怪しげな男が運営するここは、自動車修理工場だ。 …本人は、カフェだと言い張っている。 「腹減ったな。ピザ買いに行くか」 営業時間も、適当だ。 (39) 2023/09/08(Fri) 21:21:35 |