【人】 学生 五反田 健吾[ 誰かが練習でもしているのか、音色は何度も同じ音階を繰り返す。どこかで聞いたことがあるような、聞いたことがないような、わからない曲に首を傾げていれば、ひとつ、音がズレたり。 いつの間にか雨音に向かっていた意識は奏でられるピアノの方へ。拙い音色を楽しむように、歩きながらも瞼を緩く下げていれば、……汚い音が鳴り響いた。驚きに、目を瞬く。どうやら練習時間は終わってしまったらしい。 世の中には上手くいかないことばかり。彼女のことも、自分のことも、見知らぬピアノの練習主も。 意識せず遅くなっていた歩く速度を元に戻しながら歩みを進めていれば、音楽室の前を通り過ぎようとしていた。音が響いていたというのなら扉は開いていただろうか、ちらりと視線を動かせば、中にいるものを視界に入れることもあっただろう。*] (39) 2020/11/21(Sat) 13:46:18 |