【人】 九朗[舞い手の動きがぴたりと止まれば、ぱらぱらと始まった手を打つ音は一呼吸の間に称賛の拍手へと鳴り代わる。 それとともに狩り衣の舞手へ投げたり、手渡さたれたりする投げ銭。>>35 用意のいい客は色や柄のついた和紙に銭を包んで準備していたようだが、生憎九朗にそこまでの用意はない。 とはいえ何もせずに立ち去るのは…と。 小銭を入れた財布を取り出し、相場と思しき金額にほんの少しの心づけを添えて、懐紙に包んでそうれと投げた。 過去の九朗が遠い地で故郷の祭りを懐かしみながら、同じ狩衣に狐面の舞い手に投げたもの。 それを受け取ったのは先代か、或いは当代か。 そもそも東天を名乗る舞手の代替わりすら知らぬ九朗が、今それに気づくことはなかっただろう。*] (40) 2022/04/12(Tue) 22:25:53 |