【人】 陰陽師 讃岐 氐宿ひやり、微笑む笑みは夜気に侵されてかどこか冷え込んでいた。 ──闇に蠢く気配がする。 「やつがれは構いませぬが、一葉さまは夜行に備えておかねばなりませぬでしょう」 眉を顰め、手印を組み。 木っ端に等しいあやかしへと不動明王の咒を打つ。 殆ど残滓のようなそれらは、あるいは時を感じて集ってきたものか。 じわり、じわりと数を増やしているようだった。 「どうぞ、ここはやつがれめにお任せを」 そう告げ、彼の前に立たんとする。 しかし、聞こえたのはすらりと刀を抜く音であった。 「お力を振るわれますので? ……一葉さまのお手を煩わせるものでもありませぬが」 不思議そうに問うてみれば、何を馬鹿なと返される。 ──曰く。 一人に任せて逃げかえるなぞ、警吏のふるまいではない、と。 ……そのような考えがあることなど、思いもしなかったものだから。 ほう、と息を吐いて、隣に並び立つ。 ……今宵は長くなりそうだ。 [尊敬(+)取得] (49) mile_hitugi 2021/04/22(Thu) 21:12:59 |