【人】 住職 チグサ── 夜明け 慈厳寺 梵鐘にて ── [僧が撞木を打ち付けると、梵鐘が震えました。 体に染み入るような音が、朝の清涼な空気に広がります。 大きな梵鐘を鳴らすためには、それだけ重たい材木を使わねばなりません。 撞木から吊り下がる太縄は重みに軋み、その縄を握る修行僧もまた、歯を食いしばっています。 これもまた、修行の一つ。 昔、今ほど技術が発達していなかった頃は、お寺の鐘が時計がわりでした。 今では時刻が知りたければ魔法具があります。 いつでも好きな時に、より正確な時刻が知れます。 時計は寺の鐘などよりもよっぽど便利です。 ただ時刻を知りたいだけなら。 それでもお寺は昔と変わらず、日に三度の鐘をつきます。重く、辛い思いをしながら、人力で鐘を鳴らします。 朝に、昼に、そして夕に。時報として。 島に住む人々に向けて。島を訪れる人々に向けて。] (49) 2022/11/05(Sat) 6:41:09 |