【人】 橘 幸也― 客室 ― [ 真白な体に赤い目と緑の耳。その姿を目にして破顔した。] あは。可愛いうさぎですね。 南天の木、あったんですか。 [ 尋ねつつ、外を覗くようにすいと身を傾けて。それから、丸皿に切り分けたパウンドケーキを差し出して、湯呑に緑茶を注いでいった。] これ、どうぞ。佳純姉さんからです。 旅行に行くって聞いて、羨ましがってました。ふふ。 [ 高校を出たあと、パティシエになりたいって専門学校に進んだ佳純姉さん。もちろん、華さんのことは――僕と同じく――大好きで、是非にって持たされていたんだ。 その道に入ってまだ日は浅いけど、試食を何度も命じられたおかげで腕前はよく知っている。ドライフルーツとナッツのパウンドケーキは一番のお得意だ。含ませる洋酒の割合もちょうど良い加減。最初の頃にはほろよい加減になっちゃったりもしたものだけれど。] ――そう、雪うさぎ。 三人で作ったりもしましたね。 これがお父さん、こっちがお母さんで、こっちは子供たちって。 [ 子供の頃の懐かしく楽しい記憶。 もっと作ろうよ、ってせがんだことを思い返しつつ、ケーキとお茶を口に運んだことだろう。]* (51) 2020/12/30(Wed) 0:06:47 |