【人】 行商人 美濃─露店の近くに佇む人・控井─ [女の佇む露店の先の路上、はたと足を止めた男性の姿が視界に映る。>>48 並べた品を眺める表情は穏やかで、誰かへの贈り物を探しているのだろうかと、いくらか空想癖のある女は思う。 彼の視線の先を追えば、男性向けの日用品を並べた方向ではなく、女性向けの装飾や童の喜びそうな玩具の方に見えて。 先程猫飼いの男性が愛猫の玩具を選ぶ様子や、奥様への贈り物を買う優しげな表情を佇む彼の顔に重ねた。 幸せな家庭を持つ人なのだろうという空想は、彼の抱える憂いを読み取ることはなく。 贈り物をあげたい誰かがいる幸せと、相手の喜ぶ顔を思いながら贈り物を見繕ってくれる人がいる誰かの幸せが、長く続けば良いと、勝手に願う。 自分にはもう詮無き願いだからこそと思えば、他者の持つ哀しみや事情には考えが及ばない。 幻想的な非日常に恋をして、夢のような時間ばかりを享受して、少女の頃から空想癖だけを抱えたまま大人になった女は、現実の無情ややるせなさを意識の外に置いたまま、もうずっとあの頃というひとところへと取り残されていた。]** (52) 2022/10/03(Mon) 1:19:52 |