人狼物語 三日月国

55 (R18)竜宮城


【人】 ははうさぎ 理恵

[痛みの間隔が十分おきになり、やがて五分を切った。ずっと握り続けている手も、腰をさする感覚も、痛みのあまり認識できなくなった。フウタを呼ぶこともできなかった。
 名前も、過去も、理恵としての自我さえ剥がれ落ちた。最後に残ったのは、産むという意志だけだった。そのためだけに自分の肉体が存在していた。

 なまあたたかい水があふれ出した。液体は太ももを濡らし、敷かれたタオルに吸い込まれた。
 痛みのありかたが変化した。子供が膜越しに頭で押し広げていたものが、直接になり、鋭い痛みとなった。子供がいつもいた場所を離れて、降りてこようとしていた。外におくりだすため、腹筋に力を入れて、いきんだ。
 痛みに間隔がなくなり、肉体に存在し続けた。自分の意志ではコントロールできない力が体内にあった。自分の肉体から子供の出ようとする意志を感じた。母親はその摂理に従うしかなかった。降りてくる波に合わせ力を込めた。涙がずっと止まらなかった。

 西日が窓から差し込んだ。初日の出が、初めてときを認識した日の景色が、幻の中にふっと浮かんだ。
 来年は三人で見れるだろうか。

 泣き声が、部屋の中に響いた。]*
(53) 2021/01/10(Sun) 8:30:01