【人】 ははうさぎ 理恵[お腹の上に赤ん坊が乗せられた。 生まれたばかりの子供は、兎にしても亀にしても大きすぎた。そのくせ人間にしては小さかった。 自分の力で動いていて、柔らかく、ぐにゃっとしていた。 最初は青かったが、少しずつ赤みがさしていった。 自分とフウタから血と肉を受け継ぎ、離れていった、一つの命だ。] 本当に、腹の中に子供がいたんじゃな…… [少しずつ大きく育っていく腹を持ちながら、元気に暴れまわる胎動を感じながら、一方でどこか冗談じゃないかと思う自分もいた。 赤ん坊は、芋虫のような腕と足を動かしていた。 虫眼鏡がないと見えないくらいの小さな爪が、指の一本一本の先に、確実についていた。 こんな細かいところまで気を抜かずに作られている。 何か、自分たちの認識できない大いなる存在を、我が子の小さな爪の中に見た。 腕の中の赤ん坊が、理恵の胸に頭をくっつけた。 倒れ込んだと言った方がいいかもしれない。 この頼りない命は、まだ自分の力で頭を支えることもできなかった。 心臓の音を聞いているのか、やがて泣き止んだ。 母乳をあげるために乳首を吸わせた。 赤ん坊の小さな口が、必死に吸い付いてきた。 何一つこの世界のことが分からなくても、生きようとしているのだ。 愛おしさがこみあげてきた。] (54) 2021/01/10(Sun) 9:20:22 |