【人】 空虚 タチバナ[チハヤ>>41が私の名前を呼ぶ。 怨霊の前で無防備な姿を晒す男が、 私が不幸にした家族の名前を呼ぶ>>42。 頭痛が酷くなって一瞬目の前が眩んだ。 大した抵抗もなく彼の頭を抱きしめられたなら、 きっとその動揺を見られることはなかっただろう。 唯一、彼の頭を掻き抱いた指先だけが ほんの僅か、震えただけだ。] あまいの、きらい? [この身により近づけば、死の甘さは一層香り立つ。 もったりした、喉に張りつくような匂いが 彼の身体の内へ、中へ、奥へ、入り込もうとする。 己の唇は彼の左の耳元へ滑り、 冷たい吐息と湿った問いを吹き入れた。] (54) 2022/08/11(Thu) 21:14:19 |