【人】 受験生 雨宮 健斗[あの文化祭のあと、ものすごく心を入れ替えて 両親に頭を下げて、再び向かい合う ピアノだったけれど、まじめにやればやるほど、 熱心に練習を重ねれば重なるほど、 己の左手はその動きを鈍くしていく。 酷使し過ぎなのは分かっていて、目を背ける。 せめて試験が終わるまで。 常にある痛みにも、硬って固まる指にも、 痺れる掌にも。 はー、と溜息をついて頭を上げる。 ポケットの中に右手を突っ込んで、 あるはずの煙草を探った。 椅子から立ち上がって何気なく入り口に 目を向ければ、廊下を行き過ぎる生徒>>39と 視線が合った気がして。 クソのような音を聞かれていないことを祈りつつ、 軽く会釈した。 扉を開ける。 彼が音楽室に用がある様子ならば 邪魔をしないよう早々に退散しようと。 ]* (58) 2020/11/21(Sat) 18:02:49 |