【人】 隻影 ヴェレス[雨が降った訳でもなかったが、 境内の木々は不思議と露に濡れ煌めいていた。 この辺りでは珍しい植生の間を擦り抜けて 少年は本堂の方向へと向かう。 彼にとって、死者の魂を鎮めるのがどの神かなど 最早関係がなかった。 少なくとも、好奇の視線と根も葉もない噂が降り注いだ あの聖堂の管理下では安らかに眠れないだろう、と 改めて祈りを得る為に此処を訪れたのだった。 もしその寺院の住職に取り合って貰えたのなら 今日までの事情を惜しまず打ち明けることだろう。 作法なんて分からないから、差し入れの袋には 何となしに名店のバームクーヘンが入っている……] (59) 2022/11/05(Sat) 7:39:49 |