【人】 アマミ──回想:招かれざる客── [クラヴィーアがここを訪ねるようになってからしばらく経った時のこと。 その時彼女が既に家に来ていたか、それとも見てはいなかったか。 それはともかくとして、アマミにとってこの来訪が忌むべき事象であることは誰が見ても明らかであった。] 「Albert...」 [家へと訪れてきた女を前にアマミは珍しく動揺を隠せない。 その名前がかつて己を象っていた存在であることぐらいなら、アマミにだって分かってしまうのだ。 その過去は、かつてあの島で捨てた。記憶。 どれだけ過去を葬ろうとも人は消えない。 部分的に葬ろうともその過去が己を象る因子ならば、この広い因果のうねりの果てにいつか自分の前に突きつけられる。 地域特有の奇妙な訛りを孕んだ英語で「Albert」と呼ぶ女を前にして、アマミは己の奥底で蘇る不快感に下唇を噛み締めていた。] (60) 2021/03/31(Wed) 20:46:00 |