>>62 シロマ
「……ど、ど、そ、そ、ら、ら、そ……」
人差し指で丁寧に鍵盤を押していく。
弾いているというより、何かのスイッチをぽちぽち押しているといったほうが正しいかもしれない。
芸術とは無縁の少女である、ピアノなどろくに弾けやしなかったが、「きらきら星」くらいは覚えているらしい。腕前も上手くはないが、途切れることはなく壊滅的というわけでもなさそうだ。
ぽろん。ぽろん。ぽろん。
暫くの間、今限りのピアニストは朽ちた世界の中でたどたどしくも少女の為に弾き続けたのだった。
「……ふう!やりきりましたよ!梢!」