【人】 騎士見習い テンガン――浴場を去る前―― [スピカが姿を現した瞬間は呪いの言葉でも吐かれるのかと身を硬くしたが、彼が口にしたのはテンガンの身を心から案じる言葉だった。>>53] ……そう、ですか。 スピカさんも手遅れなんですね。 [自分の行為を見ていたはずの彼がそんな言葉を口にすることから、逆に彼が堕ちるところまで堕ちてしまったのだと察した。 普通ならば自分のような外道など迷いなく斬り捨てるのが正しき行いだからだ。] ふふっ、何を仰るんですか。 "先輩"に言われなくてもオレは こんなダンジョンからさっさと出るつもりです。 先輩たちの事なんて置いて帰ります。 [テンガンは殊更に明るい顔を作って答えた。 テンガンは己の中に眠る獣の本性を知ったが、それでもまだ人の皮を被って外の世界で生きていくことは出来るはずだと思っていた。 以前の自分であれば彼らを見捨てるなんて決して言わなかっただろう。 だがこの場はせめて振り向かずに彼らを置いていくことが、最後に自分を案じてくれたスピカを安心させる為の一番の言葉だと思った。 どちらかと言うと苦手だった先輩。 決して本人を直接「先輩」とは呼ばずその敬意を心の中にだけ隠してきた。 今初めて面と向かって彼を先輩と呼んだが、同時に彼とこんなに長い会話を交わしたのは初めてのことだと気が付いて、その皮肉に苦笑したのだった。]** (64) 2021/05/05(Wed) 9:45:24 |