【人】 高山 智恵 ホットのアールグレイやコーヒーと違って、ホットココアはカウンターではなく厨房で作る。 ココア粉と辛口のチョコレートシロップ、牛乳を入れた鍋。それを火にかけて、中身をかき混ぜていく。沸騰するギリギリくらいの温度まで温めてから、黒猫模様の描かれたマグに一杯を注いでいく。 こうして、甘ったるさの無いワイルドな野良猫をちょっぴりイメージした、ビターな“ 黒猫のホットココア ”の出来上がり。 砂糖抜きのオーダーだった分、ただでさえ微かな甘みはさらに削がれている。そんな苛烈な苦味を、けれどもミルクの滑らかさと温度が和らげてもいる……そんな風味になっている筈だ。 「お待たせいたしました。 また何かあれば、お声がけくださいね」 いつもの状況だったらここで「お連れ様がいらした時にまたお伺いしますね」とお声がけするところなんだけれど――今日はこの前までとは少し違うものを感じたので、ちょっと言い方を変えた。 この言い方の変化、却ってお客様を気にしている感出ちゃってるかも……とは後から気付いたんだけれど、まあ、いいか! うん、変に口出しする気は勿論ないけれど(今の賑わい具合だと、多分話の内容も意識しないと聞き拾えないけれど)、見守ってはいるよ、という意識の表れだと思っておくれ。 (67) 2022/10/18(Tue) 9:16:43 |