【人】 “観測者” 処暑[ 早めに会場へと入ると、徐々に人が増えてくる。 それを“観測”する、その時間が嫌いではなかった。 入り口を見つめ、手帳に書き記す。それから時折視線を外して思いを巡らせる。 ……と、そうして少々自分の世界へと入り込んでいると、不意に声がして思わず身体が跳ねた。 ] ……! [ 反射的に手帳を少しばかり自分の方へと寄せてしまう。 “日記”を見られたくない、という思いからだ。 改めて声を掛けた人物を認識すると、先程、到着しているのを確認した『雨水の灯守り』だ。>>28 私も数十年灯守りを務めているから、先代との付き合いも長いものだった、と思うが、 彼女が『雨水』になってからは、人間の感覚でもまだ日が浅いと言えるだろう。 直接顔を合わせた事はないし、私は会合に出ても、他者と会話することは少ない。 しかし、私の方は、会合で観察したり、それから普段も“風”によって“見る”ことで知っているから、一方的には知っていた。 そう、恐らく、彼女の想像する以上に、私は彼女のことを知っている、のだろう。 ] (72) 2022/01/16(Sun) 5:15:11 |