【人】 piacere ラウラ【路地裏】 >>67 リカルド様 貴方の言うことは最もだ。この場に留まったところで何かメリットがある訳でもない。 それを理解していても、今の今まで動けずにいたのは確かだが。 差された手に一度視線を落とし、僅かな間をおいて頷く。 一人であればそのまま放置していたものとはいえ、やはりこれについても貴方の言うことが正しいだろう。 「……そうした、つもりは。…気を付け、ます」 女の中では普通なものだから、そのようなことを告げられるとは思わず。 けれど数日前のツィオ様の言葉を思い出して、 そうした面も含めての言葉だったのだろうかと思案する。 その答えを出せるかどうかはともかくとして、地面に縫い付けられたように動けずにいたその足は、背を向ける貴方を追いかけて動き出す。 決して気持ちが晴れる訳では無いだろう。それでも行動しないことよりも己のためになる。 そんな気がした。 「……、…着いて、行きます。ラウラもきっと、後悔します から。 ………………リカルド様、…ありがとう、ございます」 喧騒が近づく。表通りは今日も楽しげで、変わらない日々だ。 賑わう人々を眩しいものでも見るかのように目を細め見て、そっとポッケの中に煙草をしまう。 貴方から紫煙の香りは漂わないけれど、やはり幼馴染と言うべきか。 追いかけるその背が上司の姿と重なって、ほんの一瞬だけ立ち止まり、路地裏を見つめてからまた歩き出すだろう。 貴方の背を追って、あの人の部屋へと。 (73) 2022/08/17(Wed) 13:48:12 |