【人】 piacere ラウラ【マウロの部屋】 >>74 リカルド様 歩を進め部屋が近くなると、何故だか鼓動が早くなる。 どうしてかは己では理解できなくて、貴方の後を追いかけながら小首を傾げてみたり。 大家への話を通し、鍵を借りて上司の部屋に辿り着くまではそう時間もかからなかったはずだ。 手際のいいその様子に何を思うのか、背後から静かに眺めていた。 扉を開けば夏特有の蒸し暑さが身を包んだ。それに加えて求めていた紫煙の香りが漂ってくる。 あれからそう何日も経っていないはずで、先程までも匂いだけは纏っていたが……懐かしいような、そんな気持ちになった。 手当を促されれば大人しく従うだろう。 蛇口から流れる水は少しの間だけ温くて、次第に冷たくなるそれを患部に当てていれば、ようやくといった形でジワジワと痛みを自覚する。 ぶっきらぼうな物言いは確かに上司に近い。 同じとは言えないが、ここでもまた似たものを感じて彼を想う気持ちが強くなる。 水の流れる音。エアコンが動く音。静かなこの場にはそれらがよく響いているのを感じて、女の視線が部屋を見回すように動く。 そうしていれば貴方は視線と視界におさまるからその様子を見つめて、そうしてある一点に向かっているのに気づきを得るだろう。 「……………写真、ですか」 遠目ではそれがどのようなものか理解はしづらい。見ようにも手を冷やすようにと言われているから、まずは問いかけるのみだ。 (75) 2022/08/17(Wed) 17:41:22 |