【人】 凍剣士 スピカ[―――やがて、とある人影が姿を現す。 待っていたのは、“淫楽の夜魔王”と呼ばれる男。 スラムを支配し、国内にまで名を轟かす、おそらく同種の中でも、最も権力を手にした淫魔。 けれど、そんな男に一瞥も、声すらかける事なく、懐から袋を投げ渡す。 男が確認すれば、中には太く、鋭い牙が入っているのがわかるだろう。 ――『ヨルムンガンドの毒牙』。 世界を呑むとさえ言われる、蛇型のモンスターの中では最大種のもの。 男の前に手を差し出す。 「報酬をよこせ」と、言外に告げていた。 この男とつるむ様になったのも、人ならざる者として新生してからだ。 日の元に出れない身の上には、なんとも都合がいい。 代わりに、男が他所に依頼できないような希少品や、難しい案件は率先して自分がこなす。 ――仲間意識などない、完全なギブアンドテイク。 そうして、報酬を受け取ればさっさとその場を後にする。 余計な関係は必要ない、その方が都合がいいから。] (76) 2021/05/09(Sun) 21:22:19 |