【人】 花で語るは ソニー>>56 ヴィオレッタ 「ソニーだよ、お姉さんは? 花屋だって知っててもらえてるのは嬉しい。 ああ、そりゃ残念だ! そんなに褒め言葉を受け取っちゃ張り切らずにはいられない。 名残惜しいけどこの一杯きりで、今日のところはお別れ」 一度断られてしまったならばやたらには食い下がったりはしない。 こちらは本心、心の底から残念そうな向きまである。けれどもずっとニコニコ顔だ。 ここまで、と半分を下回ったグラスの中身にまた手をつける。もう四分の一ほどだ。 引き際のよろしい男は、貴方が窮屈に感じないように見えるリミットを設けた。 まるで朗読でも聞いているように、上機嫌そうに頬を緩ませて頷く。頬杖をつき、相手の方を見て。 他者に伝わらないように織り交ぜられた比喩が、きちんと届いていることを示す。 「さすがお姉さん。クールに周りを見てて、カッコいいね。 祭りの最中だから多少派手ものが人気なのは仕方ないかもしれないね。 色とりどりのコントラーダのフラッグにの中にあっちゃあ、 ちょっとやそっとの色じゃ控えめで目立ちもしないもの」 つまりは、多少強引な手で押し切られたとて隠れてしまうということ。 困っちゃった、と大仰なジェスチャーで示して見せる花屋は、 相手の不自然なところもない振る舞いに一度だけウィンクを送って感謝を伝えた。 カクテルを、また一口。 「新しく商売したいひとなんかも押し寄せてるみたいだし。 オレのところみたいなちっちゃな店じゃ、なかなか輸出入に強いとこには勝てないな」 (77) 2022/08/11(Thu) 6:38:53 |