【人】 美雲居 月子[ 西は京都のとある老舗の旅館。 そこが女の生まれた家だった。 許された自由は25歳まで。 そのあとは───決められた人のもとへと 嫁ぐことが、生まれた時から決まっていた。 この場所へと来たのはリサーチのため。 とはいえ、それはもちろん表の理由。 本当の目的はわかり切ったこと。 その噂の真贋を確かめるべく、 わざわざ熱海くんだりまで足を運んだのだ。 結果、聞き及んだ噂は真実で。 こうして、つい先ほど知り合ったばかりの 男と肌を触れさせていた。 爛れた遊びをし始めたのは20を少し過ぎた頃。 10代の頃には色恋に耽ることもあった。 好きな人もいた。だが、ずっと一緒にいよう、 そんな些細な軽口のような約束すら 交わすことのできない身で長続きが するはずもなく。いつだって、向こうから 別れを切り出されて終わったのだ。 「25の歳が終われば、決まった人と結婚する」 それは、祖父が、経営が傾きかけた頃 親友に金銭を用立ててもらったときに決まった。] (78) 2020/08/15(Sat) 0:39:40 |