【人】 小さな心 サルガス>>3:77 昼頃 メレフ 「そんなことは、ないよ。メレフだって、みっつしか違わないもの。 このなかで、きみたちは忘れがちかもしれないけれど……ここにいる子は、みんなこどもなんだ」 年長者が年少のこどもの面倒をみるような環境では、それが一つの社会になる。 けれどもここの子供たちがどれほど功を成しても、外で一人前と見做されるのは難しい。 店は持てないだろう。剣は勝てないだろう。屋号を受け継ぐなら家の事から始めなければ。 ここがとても特殊な空間だということを、市井のこどもは知っている。 「うん、それで。あいている窓があったから、雨樋をのぼってのぞいてみたんだ。 中はまっくらでよく見えなかったけど、ひとかなにかがいるみたいにみえた。 こんなひるまに、暗くしてるのに。 ……そしたら指をすべらせて、落ちちゃったんだ。なんとか、なったけど」 シャツのボタンを少し動きの滞る指で外す。本当は普段の動きをするのも大変だ。 横倒しのまま肩をはだけると、肩から胸にかけて巻かれた包帯が見えた。 右肩から背中にかけては、薄皮一枚剝いたかのように赤と、青との入り交じる痣ができている。 疲労骨折や気胸を危惧して、強く固定しているのだろう。 それから、それとは関係なく。鎖骨から胸の下部までかけて、定着しきった傷が一本。 けれどもそれ以外に目立った傷はない。転ばされ、けつまずいたものはあるかもしれないけれど。 (78) 2021/05/30(Sun) 9:28:44 |