【人】 倦怠に戯ぶ シャフリヤール[――――また、愛だ。 しかし、もう片割れの天使の口から聞くそれに比すれば、邪気のない乙女のなりをしたこちらの天使の言葉は、それほど障るものではなかった。 故に、多少は脳漿を澄ませてものを考えることもできたのだろう] 愛するものの傍が、落ち着く場所、か。 フン、愛など、それこそ空虚そのもの。 人の気の迷いの極致ではないか。 そこに安住できるなどと、どうして思える? [言葉にしつつ、俺は自らの過去に、地上での過去とその結末に、想いが向く。 何もかもが不毛な無意味な俺の生でも、最も空虚で、皮肉で――――] 愛に迷ったものにあるのは破滅だけだ。 ならば、愛なぞ初めから要らん。 自らが愛を求めることはもちろん、 他者からの愛などというものは――――! [だが、その言葉は、すでに天使には届いていなかった。 俺の曖昧な態度に答えを求めず、約束の言葉と笑顔を残して、彼女はその場を去っていた。 それは、無惨を晒す俺を目の当たりにすまいとする、天使の慈悲だったのかもしれない……] [〆] (85) てば(tevasaki) 2021/09/19(Sun) 17:20:53 |