「三國さんは、ミステリを書いているそうだね。
なら、この本をあげよう。
気に入ってくれるといいが。」

デスクの本棚から、一冊の本を彼女に差し出す。
相当に古く、しかも全文英語で書かれた一冊。
一目ではどんな本かわからないだろう。

「かのシャーロック・ホームズ、最初の事件である『緋色の研究』。
その初版だよ。
100年以上前の本で、流石に傷んでしまったから扱いには注意してくれ。」

再び目線を部誌発行の書類に戻しながら、彼女に告げた。
最も、まだ高校生の彼女には読めない英文も多いだろう。
それでいい。
彼女がこの本を読もうとするなら、自然と英語を『学ぶ』だろう。
『学ぶ』とは、知らないモノを知ろうとすることだ。