【人】 学生 ガラーシャ― サルハド・昼下がり ― [ジェム。人間とは違う人。より精霊に近いひと。 存在を意識していなかった今まで、彼らはあの人の多いグラジアですら、全く目に入ってこなかった。 しかし、そういう人が居ると分かれば、気が付けば、ごくたまにすれ違う彼らの姿を見る事が出てきた。 そうだ、今、質素なショールを被りながら自分の横を通り過ぎたのも…] …落としました、よ。 [焦っていたのだろうか。 彼女が落とした小銭入れを屈みこんで拾うと、振り返り戻ってきた彼女のその白く透き通った手に手渡した。 屈みこんだまま彼女の顔を見上げる。 その瞳は、左右色違いの不思議な色合いをしていた。 心配しないで、というように小さく微笑んだ。 彼女の瞳は、アンドレアスがまだ自分に何もかもを打ち明けていない頃の、揺れるアンバーの瞳にどこか似ていたからだ。 しかし一度立ち上がれば、もう彼女の姿は振り返らず、そのまま自分の宿へと向かって歩き去る。 自分は彼女には何もできない。 けれども、きっと、彼女のあの瞳を綺麗に輝かせることができる、そんな人がいるはずだ。 それだけ祈って歩き続けた。]* (91) 2021/10/07(Thu) 21:50:16 |