【人】 墓守 トラヴィス>>92 イクリール 「拗ねているよ。でも、それこそお前たちが理解しなくていい話だし、私もそれを求めるべきではないと思う。……どう言えばいいかな。お前たちの才能そのもののことは、私は、……肯定しているんだ。だから、……それが人の傷にならない限りは、妨げられるのを好まない。私の感情や欲望と反する結論ではあるけれどね」 とはいえ、実際は人類の傷になりまくっているので、牢獄という壁で妨げられているわけだが。 怒るというよりは、諦念に近い。彼女は理解しないだろう。だが、彼女に理解されることは、誰に、何の利を生むというのか? 「……べつに、趣味ではないんだけど。仕事って概念、君の中にあるのかな」 「…………なんだか、そう聞いているとどこかファンタジックな話に聞こえてくるな。食べられそうな宝石だとか、お城のようなケーキだとか。…………食べたんだっけ?宝石」 彼女の収監データを引き出してみようと思ったが、リスト見て今食ったものを完全嘔吐しそうな未来が見えたので、やめた。 「好きという感情を拗らせずに抱き続けるというのも、稀有だねえ……」 きっと。トラヴィスが御伽噺を想起したのは、それが幼い頃の輝きのままだと感じたからだ。腐り落ち、捩れ曲がり、はじめの形を失った感情ではなく。 技術もセンスも才能だが、彼女の「犯罪者」としての特異性はここにあるな、と、それだけは素直に感心した。 (95) 2021/10/19(Tue) 5:10:35 |